うつ病と血液検査

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うつ病を疑うときも血液検査を

ある地方都市の病院で医療従事者をしておりますcleanestと申します。今回ご紹介するのは、私が勤務する病院に訪れた40代前半の女性・Aさんに関するものです。あなたもこれをお読みになって、「もしかしたら私もそうかな?」なんて思い当たる節があるかもしれませんよ!?最近、疲れやダルさがとれず元気も出ない…

 

これってもしかして「うつ病」?

 

「最近いつも疲れていて、ダルさもあり、何をするにも気力が出ないんです。おまけに些細なことでイライラしたり、そうかと思えば突然悲しくなって涙がこぼれたりもするし。こんな自分はなんて価値のない人間なのかな?って思ったりもして、時々死にたくなることさえあるんです…」とおっしゃるのは、40代前半になられる女性Aさんです。このような症状があったため友人に相談したところ、その友人からは「うつ病じゃないの?」と言われたそうです。心配になったAさんは、平日に休暇を取り、自宅近くにある精神科クリニックを受診する決意をしたのでした…

 

入社当初からバリバリ働いていたのが一転して…

 

大学卒業後、大手企業に入社したAさんですが、入社当初より人一倍一生懸命働いたそうで、仕事に対する熱意が誰よりも旺盛で、夜遅くまで残業したり、休日出勤することさえもしばしばあったようです。そして、そんな勤務態度が見込まれたこともあってか、20代後半で管理職に抜擢され、部下の管理・育成や上司との軋轢の間に挟まれながらも、今まで以上に忙しく充実した毎日を乗越えてきたのでした。このような日々が続いていたある日のことです。なんとなく体が重く感じ、ひどく疲れていることに気が付いたのでした。はじめの頃は、最近ずっと続いていた残業や休日を返上しての出勤がたたったせいなのかと思っていたそうなのですが…

 

「うつ病」かと思って精神科を受診したところ…






休暇をとり精神科クリニックへ

 

久しぶりに休暇をとったAさんは、近所にある「精神科・心療内科」を掲げているクリニックを訪れたのでした。
今まであまり病院、特に精神科や心療内科といった病院に行った経験がないせいか、かなり緊張されたそうです。
院内は非常に混んでおり、Aさんの順番はなかなかやってきませんでした。その間も、久々の休暇をとって忙しい仕事から解放されているのにもかかわらず、相変わらず体が重たいような感覚や疲労感が改善されていない状態が残っていたそうです。また、院内が非常に込み合っているせいもあり、自分の診察の順番が来ないことへのイライラ感も募ってきたとのことでした。

 

精神科医の診察を受ける

 

ようやくAさんの診察の順番がまわってきましたが、先程までの順番待ちのイライラ感もあってか、更に疲労感が増したそうです。診察では、まず精神科の医師の問診があり、今までの生い立ちや育ってきた家庭環境、最近の仕事のことや現在の家庭のことなど、色々なことを質問されたそうです。そして次に、臨床心理士という心理カウンセラーによる心理テストを受けた後、最後に看護師さんに採血をしてもらい、一旦診察室を出て再び待合室で待つこととなりました。

 

診察を受け意外な答えが…

緑

その後しばらく待ってから、再度、精神科の先生の診察となりました。診察室に入ると、先程受けた心理テストと血液検査の結果が出ているようで、先生はその結果を御覧になりながらAさんに説明を始めました。しかし、その診察結果はAさんが今まで抱いていた予想に反し、意外なものだったのです。その精神科の先生がおっしゃるには、現在のAさんは「うつ状態」ではあるものの、精神面が原因である「うつ病」とは違う病気である可能性が考えられるとのことでした。「うつ状態」とは、「うつ病」と症状は似ているものの、「うつ病」とはまた違った原因でそのような状態になることなのです。私はその説明を聞くなり、「うつ病」ではなかったことに対する安堵感と入れ替わりに、新たな病気の可能性への不安感に苛まれたのでした。先生の説明は更に続きます。そのお話によると、どうやら「甲状腺」という、ノドの下の方にある器官になにか問題が隠れているのではないかとのことでした。

 

強い疲労感や倦怠感、無力感は実は「甲状腺」が原因だった!!

 

「甲状腺」とは!?

 

Aさんは、「甲状腺」と聞いて、いったい体のどの辺にあって、何の働きをする場所なのか、正直なところ知らなかったそうです。突然、医師から告げられた、思いもよらない病気の原因説明に少し戸惑いながらも、Aさんはそのまま自宅に帰り、早速インターネットで「甲状腺」について色々調べてみたそうです…

 

ノド仏のしたにある羽を広げた蝶々のような形の「甲状腺」

 

みなさんは「甲状腺」について、どれだけご存知でしょうか?その名前を耳にしたことがある方は大勢いることでしょうが、実際に何を司っている器官なのかをご存知ない方は少なくないかと思います。甲状腺は、男性のノドで言えば、ちょうどノド仏のとがった部分の下に位置し、例えて言うなら、羽を広げた蝶々のような形をしているのです。その甲状腺の主な役割といったら、トリヨードサイロニンやサイロキシン、カルシトニンといった甲状腺ホルモンを分泌することです。これら甲状腺ホルモンを作り出す甲状腺ですが、別名「エネルギーを作り出す臓器」とも言われるくらいで、この甲状腺ホルモンの分泌が減少してしまうと「疲労感」や「倦怠感」、「無気力」といった、まるで「うつ病」のような症状があらわれてしまうのです。

 

「甲状腺機能低下症」とは?

 

甲状腺ホルモンが減少すると現れる症状とは?

 

甲状腺から分泌されるエネルギーの源、甲状腺ホルモンが減ることによって現れる症状をさらに説明します。「疲労感」・「倦怠感」・「無気力」・「脱力感」・「動作が緩慢になる」・「集中力の低下」・「記憶力低下」・「食欲低下」・「体重増加」・「便秘」・「発汗低下」・「皮膚の乾燥」・「脈が遅くなる(除脈)」・「むくみ」・「寒がりになる」・「嗄声(しゃがれ声)」・「月経異常」などなどといった色々な症状がみられるのが甲状腺ホルモンが減少した状態です。

 

甲状腺ホルモンが減少すると「甲状腺機能低下症」に!

 

この甲状腺ホルモンの分泌量が減ることにより、先程のようにいろいろな症状が現れるのですが、このような甲状腺ホルモン量が少ない状態を「甲状腺機能低下症」と言います。では、この「甲状腺機能低下症」を疑った場合に、いったいどのような検査を行い診断していくのでしょうか?さらに詳しく説明していきたいと思います。

 

 

「甲状腺機能低下症」は血液検査で簡単に診断できる!

 

先程のような「甲状腺機能低下症」の症状が現れた場合、どのような方法で診断するのでしょうか?実は意外と簡単で、血液検査で簡単に診断がつくのです。病院やクリニックで血液を採血し、その血中にあるFT4(遊離サイロキシン)やFT3(遊離トリヨードサイロニン)、TSH(甲状腺刺激ホルモン)といったホルモンの量をしらべ、その量が少なかったり、あるいは多かったりすることで診断がつくのです。

 

「甲状腺機能低下症」の診断の決め手となるのはFT4・FT3・TSH

 

では、「甲状腺機能低下症」診断の決め手となるFT4・FT3・TSHといったこれらのホルモンですが、「甲状腺機能低下症」の場合にこれらのホルモン量は一体どうなるのでしょうか。

 

「FT4(遊離サイロキシン)」とは?

 

まず「FT4」ですが、このホルモンの素となる「T4(サイロキシン)」というホルモンが最初に甲状腺で産生されるのです。そしてそのT4が血液中に入ると、そのほとんどがある種のタンパク質と結合した状態になるのですが、少量だけは結合せずに「FT4」として血液中に残ります。実はこの「FT4」こそが「エネルギーの源」となる「大もと」であり、これが減少することにより「甲状腺機能低下症」が引き起こされてしまうのです。

 

「FT3(遊離トリヨードサイロニン)」とは?

 

「FT3」についても説明いたします。この「FT3」ですが、先程お話しした「T4」から合成されてできる「T3(トリヨードサイロニン)」というホルモンが素であり、その「T3」はやはり血液中ではある種のタンパク質と結合してしまい、少量だけは結合せず血液中に存在するのです。やはりこの「FT3」も「エネルギーの源」の「大もと」的な働きをし、少なくなると「甲状腺機能低下症」を引き起こす要因となるのです。

 

「TSH(甲状腺刺激ホルモン)」とは?

この「TSH」ですが、日本語の検査名は「甲状腺刺激ホルモン」といいます。脳の中心部にある脳下垂体という部分から分泌されるホルモンなのですが、先程説明しました「FT3」や「FT4」といった甲状腺ホルモンが、血液中に少なくなると、この「TSH」が甲状腺を刺激するため”に血液中に多く分泌されます。それとは逆に、血液中の甲状腺ホルモンの量が多い状態の時では、この「TSH」が甲状腺を刺激する必要がなくなるため血液中にはあまり出ずに量が減ってくる、というわけです。ですからこの「TSH」の量は、「FT3」や「FT4」といった甲状腺ホルモン量と通常反比例するということになりますので、「甲状腺機能低下症」の時の「TSH」は通常「高い値」になります。

 

 

「甲状腺機能低下症」と関係がある「橋本病」

 

「甲状腺機能低下症」の原因となることもある「橋本病」とは?

 

「橋本病」は「慢性甲状腺炎」とも言われ、「自己免疫性疾患」といって自分の体の防御機能が本来外敵に対して働くのになぜか自分の体に対して働いてしまい、これが原因で体に炎症などが起こるというものなのです。この「橋本病」の特徴ですが、首にある甲状腺が腫れて大きくなります。(腫大と言います)そのため、外見上も首が太くなり、他人や自分がそのことに気が付き発見されることがしばしばあるようです。(注意:「首が腫れる」と聞くと「バセドウ病」を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが「バセドウ病」は同じ甲状腺の病気でも「甲状腺機能亢進症」に分類され「橋本病」とは全く違うものなのです。)この橋本病ですが、「難病」に認定されており、また、「甲状腺機能低下症」を伴っていることが多いのですが、甲状腺機能が正常(先程のFT3、FT4、TSHの検査値が正常)であれば、特に問題ないとも言われております。

 

「橋本病」を診断するための検査とは?

 

「橋本病」の診断基準は、「甲状腺の腫大」があるかということと、また、ある種の血液検査によって判断されるのです。甲状腺の腫大をみるのは、医師の触診に加え、エコー(超音波)による画像診断で容易に調べることができます。またそれに加え、「抗TPO抗体(抗ペルオキシダーゼ抗体)」や「抗Tg抗体(抗サイログロブリン抗体)」といった血液検査を行い、その数値が正常範囲を超えていれば異常とされるのです。この「橋本病」の診断ですが、これらの検査結果を踏まえ、医師が総合的に判断することにより行われるのです。

 

「橋本病」になったらどうすればいいのか?

 

先程も申しましたが、「橋本病」は、甲状腺機能が正常であれば問題がないとされています。しかし、数年後に「甲状腺機能低下症」を併発する可能性が高いとも言われておりますので、そのままにせず、定期的な検査が必要となってくるのです。具体的には先程も申しましたが、「FT3」や「FT4」、「TSH」といった血液検査を定期的に行い、甲状腺機能低下の状態になっていないかを見極めていくのです。

 

「甲状腺機能低下症」になってしまったら?

 

「甲状腺機能低下症」の治療法は?

甲状腺機能低下症になってしまった時の治療法も意外と簡単なのです。自分の甲状腺から出にくくなった「甲状腺ホルモン」をお薬にて補えばいいのです。具体的なお薬の名前ですが、最近では「チラージンS」という錠剤が処方されることが一般的です。このお薬を服用されている間は、そのお薬の量が適量か否かを見極める必要性があるため、先程の甲状腺機能の血液検査である「FT3」や「FT4」、「TSH」といった甲状腺に関連したホルモン検査を定期的に行い、お薬の量を調整していかなくてはなりません。また、橋本病に甲状腺機能低下症を併発した場合も同じで、この「チラージンS」というお薬で甲状腺ホルモンの量を調節していくのです。

 

 

まとめ

「強い疲れ」や「倦怠感」、「無気力」、「脱力感」などの症状から連想される病気といえば、多くの方が「うつ病」を想像されるのではないでしょうか?しかし、今回の症例のように、これらの症状は実は精神面からくるものではなく、身体的な要因である「甲状腺」が原因で起きた症状だったのです。今回のような「甲状腺機能低下症」が原因で、非常に「うつ病」に近い症状が出ることを知っているということは、今後、万が一、ご自分が、あるいはご家族やご友人などが同じような症状に見舞われたときに、「もしかしたら、うつ病ではなく甲状腺機能低下症かもしれない」と、気付くきっかけになるかもしれません。もし、今後、みなさんの周辺の方やご自分に今回のような症状が現れた場合には、是非、病院へ行き、甲状腺機能の血液検査を受けてみることをお勧めいたします。